リハビリテーション専門職の現状と課題 ― 嘘偽りなく伝える「今」とこれから No1
- 佐藤俊彦
- 5月28日
- 読了時間: 4分
更新日:5月28日
はじめに
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)は、日本におけるリハビリテーション医療・福祉の中核を担う国家資格職です。高齢社会の加速や、脳血管疾患、がん、整形外科的疾患、認知症、発達障害といった疾患構造の変化に伴い、これらの専門職の役割は年々重要性を増しています。
一方で、社会的認知の不十分さ、制度面の整備不足、給与や労働環境の格差といった課題も根強く存在しています。「専門職としての責任は重いが、社会的な評価はそれに見合っていない」と感じる現場職員も少なくありません。
本稿では、現在のリハビリテーション専門職の“現実”を、数字や現場の声をもとに誠実に描き出し、さらに今後の展望についても触れていきます。
1. 就業者数の推移と専門職ごとの特性
■ 急増した養成校と資格者数
1990年代以降、全国で養成校が急増し、それに伴ってリハビリ専門職の有資格者数も大きく伸びました。2023年時点での推定就業者数は以下の通りです:
理学療法士(PT):約22万人
作業療法士(OT):約12万人
言語聴覚士(ST):約3万人弱
表面的には「人手は足りている」と見えがちですが、実際にはその“数”が十分に“機能していない”という構造的な問題が存在しています。
■ 地域・分野間の偏在と活用の非効率
▶ 地域偏在:
都市部や中核都市に有資格者が集中しており、地方・中山間地域・離島などでは、慢性的な人材不足が続いています。とくに訪問リハや在宅ケアの現場では「人材がいないからサービスが提供できない」という本末転倒な状況も見受けられます。
▶ 領域偏在:
病院領域に偏重
小児、精神、司法、就労移行支援、教育分野などでは活用が進んでいない
言語聴覚士については、小児領域(構音障害・発達障害・吃音等)や精神科領域での配置が著しく不足しており、適切な評価・訓練が提供されない「見えない支援困難層」が生じています。
■ 養成校数と教育の質の課題
PT・OT養成校はすでに飽和状態で、教育の質や臨床実習の確保が懸念されています。一方、STは養成校数が比較的少なく、入学定員も絞られていることから、そもそもの供給数が需要に追いついていないという問題があります。特に地方においては、STの確保が困難な自治体もあり、地域医療計画における人材確保計画にも課題が残っています。
2.今後の展望:地域包括ケアとリハ専門職の進化
■ ① 地域包括ケアの中核としての期待
国が掲げる「地域包括ケアシステム」では、在宅医療・介護・生活支援を統合的に提供するために、リハビリ専門職が「移動可能で多様なフィールドで活動できる専門職」として期待されています。
これにより、病院外(訪問・施設・地域包括支援センター・学校・職場)での活躍の場が今後さらに広がることが想定されます。
■ ② 多職種連携とリハ専門職のリーダーシップ
今後の医療・介護は、「専門家が独立して動く時代」から「チームで支える時代」へとシフトします。その中で、リハビリ専門職がリーダーシップを発揮し、医師や看護師、介護士、栄養士、ケアマネジャーなどと水平的な関係性の中で主導的な役割を果たせるかが問われます。
このためには、単なる技術職ではなく「医療倫理」「コミュニケーションスキル」「マネジメントスキル」「社会資源の活用知識」を備えたリハ専門職の育成が急務です。
■ ③ ICT・AIとの連携による支援の変革
センサー技術やAI、音声認識、視線入力、テレリハビリテーションといった技術革新により、リハビリの提供手段や評価方法も大きく変わりつつあります。これに柔軟に適応できる人材が、これからのリハビリテーション現場では重宝されるでしょう。
特にSTにおいては、オンラインでの発話訓練・遠隔嚥下評価などが拡大する可能性があり、ICTスキルの修得が必須です。
■ ④ 政策提言力と自己啓発の必要性
リハビリ専門職は、社会保障制度や診療報酬体系の中で評価されにくい領域で働くことも多いため、**自らの専門性を政策に反映させる力=「声を上げる力」**が今後求められます。
専門職団体や学会は、エビデンスと臨床の声を結びつける役割を果たすとともに、現場職員自身も、**「変化を待つ」のではなく、「変化を創る側」**に立つ必要があるでしょう。
結びにかえて
リハビリテーション専門職は、単に「身体を動かす」「訓練をする」職種ではなく、患者・利用者の「生活と人生」に寄り添い、希望をつなぐ専門家です。その役割は今後ますます広がる一方で、現状には多くの制度的・構造的課題が残されています。
「数」ではなく「質」と「活用のされ方」、そして「社会的な評価」を伴う成長こそが、本当の意味でのリハビリテーション専門職の未来を支えるのです。
今、私たちはその岐路に立っています。
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