リハビリテーション専門職の現状と課題 ― 嘘偽りなく伝える「今」 NO5
- 佐藤俊彦
- 6月4日
- 読了時間: 4分
専門職の将来と制度的な課題
― 現場の真価が届かない「制度の壁」
■ さらなる支援が求められる未来に向けて
今後、日本社会はこれまでにない複雑な課題に直面します。超高齢化の加速により、認知症の増加・がん治療後の生活支援(がんサバイバーシップ)・希少疾患や神経難病の長期療養が当たり前となる社会が到来します。加えて、発達障害や医療的ケア児への対応、小児から成人移行期(トランジション)の支援など、全年代にわたる包括的支援が不可欠です。
このような中で、リハビリテーション専門職は、「医療と生活の橋渡し役」として、疾病の回復支援にとどまらず、“生活支援・地域支援・人生支援”の主軸を担う存在として、ますます重要性を増しています。実際、国が推進する地域包括ケアシステムにおいても、訪問リハや介護予防支援、生活機能向上支援事業などでリハ職の関与が求められています。
しかしながら、その将来像に制度が追いついていない現実があります。
制度的な課題1:
病院中心の診療報酬構造と地域支援の軽視
現行の診療報酬体系は、入院病棟・急性期医療中心に設計された構造がベースになっています。疾患別リハビリテーション(心大血管・脳血管・運動器・呼吸器・がんなど)は、病院内での機能回復訓練を前提として点数設計されています。
この構造の問題点:
地域包括支援センター、在宅、訪問リハ、通所リハなど病院外での活動が診療報酬制度上では軽視されている
予防的支援(転倒予防、フレイル予防、孤立防止)に関しては“点数ゼロ”の活動が大半
支援が必要でも、「医療行為に該当しない」として診療報酬外と判断される例が多い
結果として、生活を支えるリハビリは、制度上では“無報酬”または“自己責任”として処理されがちであり、地域で活動するリハ職の存在価値が可視化されていません。
制度的な課題2:
キャリアパスの不在と専門職の「頭打ち構造」
多くのリハビリ専門職は、臨床現場で数年経験を積んだ後、「次のステップ」を模索し始めます。しかし現状では、その選択肢が極めて限定的であり、次のような課題が指摘されています。
管理職ポストが少なく、上が詰まっている施設が多い
教育・研究職への移行はハードルが高く、大学院進学や研究費支援体制も不十分
専門領域(小児・高次脳・摂食嚥下・地域支援など)を極めても、それが制度的に“職域”として認知されにくい
長く働いても昇給幅が小さく、年収が一定ラインで頭打ちになる
このような状況は、専門職でありながら“年功序列型・単線型キャリア”の構造に縛られていることに起因しており、「キャリアを積んでも報われない」という実感が中堅・ベテラン層の離職要因にもなっています。
制度的な課題3:教育体制の未整備と現場との乖離
養成校の増加と同時に、臨床実習指導・卒後教育・専門領域研修の制度設計は追いついていません。以下のような問題が見られます:
実習施設の教育力格差が大きく、「見学実習」中心の実習校と「実践的指導」が可能な施設との間で質にばらつきがある
卒後の研修制度は、学会や団体任せであり、国家資格としての義務研修制度は未整備
小児・高次脳・難病・終末期・就労支援といった専門性の高い領域に特化した系統教育が不足
新人教育は各施設の裁量任せで、育成コストや指導の質の保証が制度化されていない
結果として、臨床現場は「即戦力」を求める一方で、新人側は「十分な準備がないまま現場に放り出される」という齟齬が起きています。教育の質と臨床の現実が乖離している状態です。
制度的な課題4:
政策決定過程への関与不足と政治的発言力の低さ
リハビリ専門職は、制度の影響を強く受ける一方で、制度設計への影響力は極めて弱いのが現実です。
診療報酬改定においては、医師会・歯科医師会・看護協会が強い発言力を持つ一方で、リハ職団体の影響力は限定的
中央社会保険医療協議会(中医協)にリハ専門職の常設委員がいない
介護報酬・障害福祉制度の設計においても、リハ職の声が届きにくい構造
これにより、「制度は決まったあとに知る」「意見は出せても通らない」という無力感が広がっています。また、政界に専門職出身者が少ないため、法改正や政策へのアクセスも限られているのが現状です。
結語:制度が整わなければ、専門性は続かない
リハビリテーション専門職は、今後の日本社会において必要不可欠な存在であることに疑いはありません。しかし、その専門性が制度に支えられなければ、持続可能性はありません。
目の前の患者・家族の生活を支えるために動ける専門職が
その支援の意義を、社会と制度に伝え、評価してもらえる環境
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