リハビリテーション専門職の現状と課題 ― 嘘偽りなく伝える「今」とこれから No2
- 佐藤俊彦
- 4 日前
- 読了時間: 4分
処遇と給与:現場の厳しい現実 ― 数字に現れない「見えない苦労」
■ リハビリテーション専門職の平均年収
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」や、求人情報、職能団体の調査によれば、リハビリテーション専門職の平均年収は以下の通りと推定されています:
理学療法士(PT):約390〜420万円
作業療法士(OT):約380〜410万円
言語聴覚士(ST):約360〜400万円
これらは年齢階層別や地域、勤務先の種類によって大きく変動しますが、**一般的には「30代で年収400万円を超えるかどうかが一つの壁」**と言われています。
▶ 他職種との比較
職種 | 平均年収(全国推計) |
薬剤師 | 約550万円 |
診療放射線技師 | 約510万円 |
臨床検査技師 | 約470万円 |
看護師 | 約490万円 |
リハビリ専門職(PT/OT/ST) | 約370〜420万円 |
この比較からも明らかなように、同じ「国家資格」かつ「医療専門職」でありながら、リハビリ職の賃金水準は構造的に低い位置に据え置かれているのが現状です。
■ 賃上げ政策の限界:2024年度 同時報酬改定の光と影
2024年度、国は診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬の「トリプル改定」を実施し、「医療・介護職の処遇改善」を掲げました。これにより、ベースアップ評価料や処遇改善加算などの制度が創設・拡充されましたが、
リハビリ専門職は加算対象に含まれにくい
施設側も制度理解や申請の煩雑さから加算の取得を断念するケースが多い
加算を取得しても、リハ職に還元されない運用が一部で行われている
などの理由から、制度の恩恵を実感できていない職員が多数存在しています。
■ 業務負担の増大と報酬の不一致
リハビリ専門職の業務は、単なる「運動指導」や「言語訓練」にとどまりません。現在では以下のような多岐にわたる役割が課されています:
アセスメント・計画書作成・モニタリング(頻回な記録業務)
患者・利用者・家族への説明と同意(インフォームドコンセント)
医師・看護師・介護士・ケアマネジャー等とのカンファレンス
多職種チーム内での教育・連携・調整役
精神的ケアや社会的支援への関与(特に在宅支援領域)
それにもかかわらず、評価されるのは「提供した単位数(時間)」であり、質的な貢献や付帯業務の負担は報酬に反映されにくい構造となっています。これが、専門性を発揮すればするほど、効率的な報酬算定が難しくなるというジレンマにつながっています。
■ 精神的・身体的負担と人材流出のリスク
近年、特に若手〜中堅のリハ職において以下のような現象が顕著になっています:
就職3年以内の離職率が高い
「別業種への転職を考えている」
STでは小児領域や訪問系の人材確保が極めて困難
さらに、結婚・出産・子育てとの両立が難しい(休職後の復帰支援が不十分)、副業や研究・研修活動に対する職場理解が乏しいといった問題も挙げられており、長期的なキャリア形成が難しい環境であることが指摘されています。
処遇改善に向けた課題と展望
■ 将来に向けたビジョンと必要な対応
これからのリハビリ専門職の「あるべき姿」は以下のような姿勢・制度整備に依存します:
職種横断的に連携して「専門職の声」を届ける体制づくり
経済的基盤を安定させ、専門性を維持できる賃金設計
ライフステージや働き方に合わせた柔軟な就労モデル
臨床と教育・研究・政策提言の分野を横断したキャリア設計
ICT・AI技術と連携した新たな支援モデルへの適応
結語:専門性を支えるには「処遇」が不可欠
リハビリテーション専門職の使命は、患者や利用者の「生活を再構築する」ことにあります。そのためには、本人の専門性だけでなく、「安心して働き続けられる環境=処遇」の改善が不可欠です。
処遇が改善されなければ、専門職としての誇りも維持できません。処遇が改善されなければ、未来を支える若い世代も育ちません。そして、処遇が改善されなければ、支援を必要とする人々に必要なリハビリサービスが届かなくなります。
私たちはいま、その「転換点」に立っています。
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